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傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。
「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」
男は力なげに口をあけていた。
道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。
と、云つた。彼は殆ど房一の前に立ちはだかつた恰好だつたが、もぢもぢして、何だか自分を小さく感じていた。房一と目を合せると、すぐに外らせて、急にぐつたりとした様子になりながら、
「さうです。農林学校の先生だとかをしていられると聞きましたが」
と、房一を誘つていた。
しかし、さういふ身体の忙しさより何よりこたへたものは、房一にとつては肉親の大病を診察するといふはじめての経験だつた。
「先生!」
「ふうん。ひどい奴だねえ」
「痛むか?」
何かしら、すつ飛んでしまつた。白い光るものも、鬼倉の隈取くまどりのやうに荒い皺の走つた顔も、それからあの、もやもやした怒りも。そして、ぼんやりとして次のやうな話がとり交はされるのを聞いていた。