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    「おい、早く早く」

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    それは何となく不思議なことだつた。家にいたところで別に賑かに喋しやべり立てるわけでもなし、むしろ年中窮屈さうに不服ありげに無口で固い顔をしている茂子が、今この家にいないと知つただけで、こんなに伸び伸びし、自分がさう思ふだけでなく、そこらにある家具までが何となく気楽さうに見えるとは!

    練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。

    「一つ着て見せたらどうです?高間さんにはきつと似合ひますよ」

    後で馬がいないと云ふので騒ぎだつた。

    が、自分の家の前あたりまで来たとき、かなり先きの通りに四つ五つの人影が黒くかたまつて立つているのを見た。何をしているのか判らない。房一はそのまゝ家の中に入つた。

    と、加藤巡査はくり返した。

    「どうでした」

    「はあ」

    徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。

    房一は思はず笑ひ出した。

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